【定年後の居場所】「働かないオジサン」にならないために 松任谷正隆氏の著書に共感 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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【定年後の居場所】「働かないオジサン」にならないために 松任谷正隆氏の著書に共感

 最近、松任谷正隆氏の『おじさんはどう生きるか』(中央公論新社)を手にとってみた。

 今年70歳になる音楽プロデューサーが、時代は変化しているのに自分は対応できているのかという迷いを持ちながら書いたエッセーである。

 音楽の話はほとんどなくて、日常生活において感じたことを等身大にかつユーモラスに語っている。ユーミンとの家庭生活の一端も垣間見ることができる。

 この本の冒頭では、「多くの女性が会議に入ると時間が長引く」と発言した森喜朗元首相と思われる事例を引用しながら、テレビやネットでボコボコにたたかれているが、この人には堪(こた)えていないようにも見えると語りだす。「はて、それでは僕はどうなのか、といえば、やっぱり失格、退場、の部類なんだろうなあ」と思いを巡らせる。

 この本のエッセーの後には、松任谷氏と40代の女性コラムニストのジェーン・スー氏との対談が収められている。ジェーン氏は、“おじさん”の典型例は、自分の権力に無自覚なまま不用意な発言を繰り返す人たちだという。彼女は、おじさんたちは変化に合わせて生きなくても自分の生活には何ら影響がないからだと指摘する。

 確かに男女雇用機会均等法は施行されていても、企業における管理職の男女比率やダイバーシティの展開、女性活躍推進などの指標は国際的に見劣りする。これらの要因の1つは、自分には直接関係のないことだからという姿勢があるのかもしれない。ただ同じ時代を過ごしてきたという意味では、程度の差はあっても誰の中にもこのオジサンは存在するのだろう。

 実は、私は2013年に『あなたの隣の「働かないオジサン」』というタイトルで、東洋経済オンラインで連載していた。若い時には仕事に意味を感じていても、中高年以降になると意欲を失う会社員が少なくない。私自身も40代になって成長している実感が得られず、誰の役に立っているのか分からなくなって「このままでよいのだろうか?」という迷いを心の中に抱えていた。当然ながら仕事に対する意欲も落ちていた。

 私はこのような状態に陥る中高年男性を「働かないオジサン」と名付けてみた。当時は、この連載記事がヤフーのトップページに取り上げられたこともあったので、出版した本のタイトルにも『働かないオジサン』を使った。

 それでは、このような無自覚なおじさんや「働かないオジサン」はどうすればよいのだろうか。女性コラムニストが指摘するように価値観の更新は必要だろうが、いきなり言われても簡単に価値観を変えることはできない。私は新たなことに取り組んで「今まで知らなかった自分」に気づくことが1番の解決策ではないかと考えている。小さいことでも良いので自分自身の変化を感じることがまずは有効ではないだろうか。対談の中で、松任谷氏は、自分がステレオタイプのおじさんにならずにすんでいるとしたら、音楽の新たな変化をいつも追っているからかもしれないと語っている。

 ■楠木新(くすのき・あらた) 1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。50歳から勤務と並行して取材、執筆に取り組む。2015年3月、定年退職。現在、神戸松蔭女子学院大学教授。人事・キャリアコンサルタント。25万部を超えるベストセラーになった『定年後』(中公新書)など著書多数。21年5月に『定年後の居場所』(朝日新書)を出版。

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