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【あきらめない肝臓がん】肺転移も消え、肝臓がんはコンバージョン手術で根治 薬物療法の種類や組み合わせで著しい効果

 中等度の肝臓がんに対して、予後(治療後の生存の見通し)が飛躍的に延びることが期待される治療方法を前回までに紹介した。しかし、自覚症状がないまま進行し遠隔転移のある肝臓がんで発見される人もいる。

 50代の川崎弘さん(仮名)もその1人だ。2年前、原発(元のがん)の肝臓がんと、肺にも遠隔転移があると地域の病院で診断。近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)の工藤正俊主任教授(消化器内科学)のもとを訪れた。

 「肺だけではなく、リンパ節と、さらに門脈腫瘍栓という肝臓につながる静脈周辺にも転移があり、ステージIVbの診断になりました」と工藤教授。

 最初の医師は「もはや成すすべはなし」と言った。しかし、川崎さんは「ここで死ぬわけにはいかない」と懇願する。その思いに寄り添い、工藤教授は最新の治療方法を提示した。

 当時、転移のある肝臓がんを対象に実施されていた臨床試験(治験)に参加してもらい、免疫チェックポイント阻害剤を投与する方法だ。

 川崎さんはこの治験の条件に該当し、望みを託した。投与を続けると、肺などへの転移がまず消えた。ただ、肝臓がんは残り、むしろ大きくなっていた。そこで残った肝臓のがんには免疫チェックポイント阻害剤が効かないタイプ、特にベータカテニンという遺伝子の変異のある可能性を考え、通常診療に切り替えた。そして、そうしたタイプの肝臓がんに効果が期待できる分子標的薬「レンバチニブ」を投与した。

 これがうまくいき、残存した肝臓がんを劇的に縮小・壊死(えし)させることに成功した。

 次は3つ目のステップ。「小さくなったがんの切除ができるかもしれない」。工藤教授は川崎さんと相談のうえで、コンバージョン手術を実施し、残った肝臓がんを切除した。

 コンバージョンは「変更する」という意味。この術式は、当初手術不能と診断されたが、その後の治療でがんが縮小した場合、根治的な外科手術に変更する方法を指す。

 一般的には、転移があるがんは手術不能とされ、全身療法として化学療法が選択される。とはいえ、「化学療法を行っても、半年くらいしか命が持たないことがある」(工藤教授)。

 この通例の壁を打ち破ったのは、治験での免疫チェックポイント阻害剤、通常診療に切り替えた後のレンバチニブ、そして仕上げのコンバージョン手術の組み合わせだった。

 工藤教授は研究でもさまざまな成果を上げている。免疫チェックポイント阻害剤の効果がなくなった後の2次治療で、レンバチニブを投与すると、生存期間が2倍になることを立証。この研究は昨年10月、国際的専門誌「Cancers」に掲載された。

 世界の肝臓がん治療をリードする工藤教授は「肝臓がんの薬物療法はその種類や組み合わせによって著しい効果がみられています。患者さんもあきらめないでほしいと思います」と話している。(取材・佐々木正志郎)

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