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【昭和のことば】下着をつけない和服の習慣から洋装化へ ズロース(昭和7年)

 いったいどの世代までが知っていることばなのだろうか。さすがにいまや聞くことがない。

 ズロースとは日本の洋装化の初期に流行った女性用の下着のことである。この年、日本橋の白木屋デパートで火事があり、多くの人が被害にあった。なかでもロープを伝って窓から階下へと避難する際に、着物の裾の乱れを気にして13人の女性が転落死したことが話題になった。もともと下着をつけない和服の習慣に対して、当の白木屋が、ズロースを着用する「洋装」の奨励を積極的に行い、急激に「ズロース」が一般化することとなった。

 この年の主な事件は、「関東軍、ハルビン占領」「井上準之助前蔵相、血盟団員に射殺される」「大相撲春場所興行開始。東西対抗制から系統別総当たり制に」「満州国、建国宣言発表」「第1回日本ダービー『東京優駿大競争』開催」「斉藤実内閣成立。軍部・官僚からなる『挙国一致内閣』の誕生」「中央気象台、富士山頂観測所を設置」「リットン調査団、日本政府に報告書通達」など。

 この年の映画は『国士無双』(伊丹万作監督)や『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(小津安二郎監督)。第10回ロサンゼルス五輪が開催され、金メダル7個を獲得。慶大生とその恋人が大磯町坂田山で心中。「天国に結ぶ恋」として美化され、映画もヒットした。

 白木屋の惨事は心に迫る。だがそれ以上に、(非常時においてさえも)「裾の乱れを気にする」という当時の感覚自体がわれわれの心をざわつかせる。女性の奥ゆかしさ、日本古来の恥の文化、女性であることの抑圧、危機管理の未熟さ。いろんな言い方ができる。でも、こうして時代は進み、人々の心も少しずつ進化(変化)していくのだ。(中丸謙一朗)

 〈昭和7(1932)年の流行歌〉 「影を慕いて」(藤山一郎)「銀座の柳」(四家文子)「涙の渡り鳥」(小林千代子)

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