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【zak女の雄叫び】《zak女の雄叫び お題は「失敗」》「冤罪、繰り返してはならない」作家、伊佐千尋さんの遺言 (1/2ページ)

 私個人としての失敗の話ではないが、ある人が、遺言のように訴え続けた“失敗”について書きたい。冤(えん)罪(ざい)。無関係な人はいない。なぜなら、誰でも無実の罪でぬれぎぬを着せられる恐れがあるからだ。

 その人は、横浜市在住の作家、伊佐千尋さん。今年2月、前立腺がんのため88歳で亡くなった。本土復帰前の沖縄で昭和39年に起きた米兵死傷事件で、米国の裁判制度である陪審裁判の陪審員を務め、その経験をノンフィクション「逆転」として世に出した人だ。

 私が伊佐さんに出会ったのは、大阪社会部の裁判担当だった平成20年末。翌年に始まる裁判員制度に向けて、陪審員を務めた伊佐さんの体験をぜひ聞きたいと考えた。通年企画「裁く時」の第一回テーマとして、沖縄の陪審裁判を取り上げることにしたのだ。

 「逆転」は、米兵を死傷させた罪で起訴された日本の若者を実質無罪とする判決を下すまでの陪審員たちの実話。伊佐さんは、長期拘留、自白調書偏重の司法制度がいかに冤罪を生んできたかに怒り、一般市民が有罪か無罪かを決める陪審制度が、なぜそれを防げるかを熱く語った。気づけば何時間も過ぎていた。

 伊佐さんは、市民だけでなく裁判官が加わる裁判員制度について批判的だった。「突然呼ばれた市民同士だったからこそ、評議で思ったことを言い合い、納得のいく評決に至ることができた。もし評議に裁判官が加わって有罪を主張していたら、無罪の持論をすぐに撤回していたかもしれない」。経験に裏打ちされた確信は揺るがなかった。戦前には日本にも陪審制度があり、その復活こそが冤罪を防ぐと信じて、活動を続けていた。

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