記事詳細

カナダで尊敬される慰安婦問題仕掛け人の人生と活動 (3/3ページ)

 『南京』は当初、刊行を渋られるようなマイナー書籍だったが、彼は英語で書かれている同書が、欧米圏で南京大虐殺をアピールするうえでは格好のテキストになると確信したという。

 「出版社に交渉して定価の半額で2000冊を買い付け、みずから売り切りました」

 さらに著者のアイリスに連絡を取り、バンクーバーとトロントを訪問させ、人脈を活かして多くのメディアに売り込みをかけた。

 結果、『南京』は世界的なベストセラーとなる。同書は米国内に複数の仕掛け人がいたが、カナダのジョセフもその一人だったのだ。もっとも、『南京』は引用写真や記述の間違いの多さが指摘され、学術的には問題が多い書籍でもある。

 「アイリスは学者ではなく著述家です。書中の資料や調査には完璧とは言えない部分はありました。ただ、長期間のリサーチを通じた労作なのは確かです。従来、欧米に知られていなかった南京大虐殺について、理解の間口を広げた功績は大きい。過去を学ぶ上では有用な書籍だと思います」

 ジョセフはそう説明する。

 ◆南京でスタディツアー

 やがてジョセフは2004年ごろから教育分野に注目。オンタリオ州議会や行政へのロビー運動や、歴史問題ドキュメンタリー映画の制作支援を盛んにおこなうようになっていく。

 ジョセフが率いるAEは2005年、州の教育庁に働きかけて、アジアでの大戦被害の「真実」を州内の高校の必修カリキュラムに組み込ませることに成功する。アイリスの著書をはじめ、歴史問題関連書籍を高校900校の図書館に寄贈する運動も開始した。

 「中国政府や、他の歴史問題団体の一部は南京大虐殺の犠牲者を30万人だと主張していますが、AEが認可したティーチング資料はすべて、東京裁判の判決を根拠として『20万人以上』と書く立場です。むやみに数字を誇張することは避けなければいけない。もっとも、人数は本質的な問題ではありません。1937年の南京で多くの人が亡くなったことが、最も重要な問題だと考えています」

 AEは州内の高校教師ら25人ほどを、南京やソウルの抗日博物館に送り込むスタディツアーも実施している。

 同ツアーの参加者だった台湾系カナダ人のティファニー・ションは、AEの支援を受けて慰安婦ドキュメンタリー映画『謝罪』(2016年)を制作。中国や台湾の慰安婦関連組織と連携している。また、昨年秋に州議会で南京動議を提唱したスー・ウォン議員もAEとの関係は非常に密接だ。

 数多くの「弟子」たちが生まれていることも、ジョセフの影響力の大きさを感じさせる。

 ※文中敬称略

 【プロフィール】やすだ・みねとし/ノンフィクションライター。1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。著書に『和僑』『境界の民』『野心 郭台銘伝』など。

 ※SAPIO 2018年3・4月号

NEWSポストセブン
zakzakの最新情報をSNSで受け取ろう

関連ニュース