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【BOOK】第165回芥川賞・石沢麻依さん 震災を「記憶」することとは何か 『貝に続く場所にて』(講談社) (1/2ページ)

 第165回芥川賞は、ドイツ在住の石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』と、李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』に贈られた。石沢さんは「群像新人文学賞」を受賞したデビュー作で芥川賞を射止めた。李さんは台湾出身で、中国語を母語としながら日本語で小説の発表を続け2回目の候補だった。日本語以外を母語とする作家の受賞は楊逸さん(第139回)以来2人目となる。 本文・竹縄昌

 --おめでとうございます。今のお気持ちは

 「本当にありがとうございました。今はまだ、うれしいというよりは、恐ろしい気持ちの方が強いですね」

 --というのは

 「受賞して押し寄せてくるものへの怯(おび)えもありますが、作家として書き続けることの方が何よりも重要な問題です。今の段階でこのような大きな賞をいただいて、この先大丈夫だろうかという自分自身への不信感が強くあります」

 「もう一つは震災という非常に大きなテーマを扱ったために、(震災を)踏み台にしているのではないかという不安や違和感が、恐ろしいという感情につながったのではないかと思います」

 --テーマについては

 「もともと震災を扱った小説を書くことなんてできるわけがないとずっと考えていました。震災を扱うことのやましさや罪悪感があったほか、未曾有の事態に対する自分の言葉の脆弱(ぜいじゃく)さを感じていたからです。それがドイツに来てから、少しずつ変わっていったのかもしれません。さらに昨年コロナ禍によってロックダウンとなったときに、震災の記憶が動き出しました。街から人の姿や音が消えた様子に既視感を覚え、当時の身体的感覚なども徐々に思い出したのです。その頃、内田百●が、関東大震災で亡くなった教え子を悼む短篇を読み返す機会がありました。作品が震災から12年後に書かれたことを知り、衝撃を受けたことを覚えています。この距離で記憶と向かい合うことが私にもできるだろうかという問いかけが、書くきっかけとなりました」

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