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【BOOK】執筆はワインみたいなもの…熟成度のタイミングが重要 大学院退学→専業で作家としての底上げ決意「覚悟はある」 小川哲さん『嘘と正典』 (1/2ページ)

★小川哲さん『嘘と正典』早川書房 1600円+税

 2015年のデビュー以来、続けてSF長編を発表し、山本周五郎賞を受賞した若手作家の初短篇集。一方、この春、東大大学院を退学し、晴れて専業作家に。新たな境地について聞いた。(文・竹縄昌 写真・納冨康)

 --『ゲームの王国』のような大河的な長篇から短篇まで、自在です

 「全部書き下ろしだったら気持ちも違うかもしれませんが、昔書いたものが勝手に本になっているので、本を出したぞという感覚は長編より薄いです。でも、その月、その月に苦労してきたことへのご褒美、ボーナスみたいな感じでしょうか」

 --大学院を退学され、専業作家を選ばれた。独立の覚悟は

 「退学したのは休学期間を延ばせなくなったからなのですが、(覚悟は)あるといえばある、というか、これまでのように自分が納得や満足したら原稿を渡すというのではなく、締め切りという時間がどんどん迫ってくる中でいかに自分のベストを尽くすか、みたいな感覚になってきました。作家としての底力を上げなくちゃいけないという感じはします」

 --そのために何か

 「とくにないですが、決意があるし、今まで通りじゃいけないなと思っています。でも、あまり根を詰めるとどんどん小説を書くのが嫌いになってしまうので、僕が気分良く書ける状態を維持しながら、それでも日々進歩していきたいなと漠然と思ってます」

 「真面目になりすぎないというか、あまり編集側の気持ちを考えすぎるとどんどん書けなくなってしまうので、この時点で僕にできるのはこんなもんだ、ここまでしかできないというところでやるしかないと。無限の時間があって無限に原稿をいじれば、最高の原稿になるかというとそうではなくて、執筆はワインみたいなもの」

 --というと?

 「熟したワインが万人受けするかというとそうでもなくて、成熟度にどのタイミングで、終わりとピリオドを打つか、みたいな感じ。締め切りがあってプロはその範囲でどれだけ頑張れるかということでしょう」

 --さて、本書には「時間」というテーマが通底しています。以前から関心があったのですか

 「所収作品の中で、時系列的には『最後の不良』を最初に書いたのですが、短篇集に入れるつもりで最初に書いたのが時間がテーマの『魔術師』でした。短篇集のコンセプトとして何を揃えようかという話になったとき、それなら『時間』で、ということになりました」

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