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【ぶらり、ぶんがく。本と歩く】「ふるさとは遠きにありて-」犀川のほとりで口ずさむ 室生犀星「抒情小曲集」 (1/2ページ)

★室生犀星「抒情小曲集」金沢・雨宝院

 金沢の中心街である香林坊・片町から南西に少し足を伸ばす。三角形が組み合わさったトラス構造が印象的な犀川大橋があらわれる。川を渡っていくうちに、賑やかさが遠のいていく。渡り切って右折。瓦を載せた塀の先に、小さいけれど立派な門があった。「雨宝院」と記された門の脇にお地蔵さまが立って、参詣者を迎えている。

 大正から昭和にかけて詩人・小説家として活躍した室生犀星(1889~1962年)は、幼少期をこの小さな寺で過ごした。すぐ近くには、生家跡もある。そちらは現代的な建物になっていて、室生犀星記念館として公開中。この町が犀星の「ふるさと」だ。

 〈うつくしき川は流れたり/そのほとりに我は住みぬ/春は春、なつはなつの/花つける堤に座りて/こまやけき本のなさけと愛とを知りぬ/いまもその川ながれ/美しき微風ととも/蒼き波たたへたり〉

 川の名前をそのままタイトルにした「犀川」は、20歳から24歳ぐらいまでの作品を編んだ初期詩集「抒情小曲集」の一編。同書には自序や覚書が付されていて、創作の背景を垣間見ることができる。住んでいた寺院の奥の間から、犀川の清流や遠くの山々まで望めたことなどが記されている。

 〈そこここの散歩や、草場のあたりでいろいろな詩をうたつた。風のやうにうたひながら自分でつい感心してしまつて、ほろりとするといふやうなこともあつた〉

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