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【松浦達也 肉道場入門!】鼻へ抜ける野趣あふれる香り 目白・旬香亭の「ラムカツ」

★絶品必食編

 肉の揚げ物と言えば、トンカツをはじめ、定番があれこれ思い浮かぶ。だが逆に言うと、メニューとして驚くような肉の揚げ物に出合うことはなかなかない…。

 と思っていたら、今年、生まれて初めての揚げ物体験をした。「ラムカツ」だ。

 数年前から東京・目白にある洋食レストラン「旬香亭」でたまに揚げ物会を開催している。今年の会の内容について古賀達彦シェフに相談すると、8種類の揚げ物のご提案に続けて「ラムカツも入れちゃいましょう!」と景気のいい一言が。

 期待に胸を膨らませて(腹は空かせて)いざ当日! メンチやロース、ビフカツなどが出た後に、真打ちのラムカツ登場! 「ザクッ!」という音が聞こえそうなくらいこんがり揚がった栗皮色の衣に包まれた、一面薄紅色のラム!

 矢も盾もたまらず、歯を立てれば想像以上の心地良い食感と、「カリザクッ!」という音が頭の芯から鳴り響く。

 強い食感の衣を抜けると、そこにはしずしずとしたキメの細かい肉平原が広がっていた。噛みしだくと、最初はかけ離れていた、衣の強さと肉の柔らかさが少しずつ一体となっていく。

 衣の香ばしさの奥から、ラムの草が香る頃、パラリと振ったクミン塩の香りが鼻へと抜けてくる。揚げも味も、野趣あふれるのに精妙極まりない。これはいったい?

 聞けば「高温で揚げて休ませただけ」というが、高温で揚げて衣に香ばしさを与え、衣という緩衝材を通して、ラム肉にはやわらかく火を入れる。芯まで火が通る前に引き上げ、余熱で全体に熱を回す。

 気づけば2切れ、3切れと手が伸びそうになり、周囲からジロリと睨まれる。

 「実はラムって焼くより、こっちのほうが簡単なの」とシェフはこともなげに言うが、ラムと言えばグリル! という常識を鮮やかに覆す、見事な仕上がり。

 思い起こせば「旬香亭」には、いつも「えっ」と驚くようなメニューがあった。コースの締めの自家製ラーメンとか。ここには圧倒的な“オリジナル”がある。

 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、専門誌での執筆やテレビなどで活躍。「大人の肉ドリル」、「新しい卵ドリル」が好評発売中。

 

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