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【松浦達也 肉道場入門!】祝連載100回! 上や特上に引けを取らない、スタミナ苑の「並」

★絶品必食編

 気づけばこの連載も100回目のようである。となれば、やはり特別な「肉」を紹介しなければ…。そう考えたときに真っ先に思いつくのがこの「並」である。

 鹿浜の名焼肉店「スタミナ苑」(東京都足立区)。以前、深夜の営業終了後に仕込む同店の「煮込み」を紹介したことがあるが、今回は堂々と「焼肉」のメニューをひとつ紹介したい。

 この店における肉の名物メニューは数えきれないほどある。「ミックスホルモン」の味の美しさは「ほとんどの客が注文する」という店主の言葉が証明しているし、上タン塩はいつからか「2人あたり1人前まで」という注文制限がかかってしまった。それほどの人気の品だ。

 だがこの店において値段と味はイコールではない。「並」にして「上」や「特上」に引けを取らない皿もある。

 正肉でもっとも安い「並切り落とし」がそれだ。基本的にスタミナ苑の正肉は同じ個体から切り出されたもの。「特上」や「上」の端材が「並切り落とし」。赤身の肉質や脂の味わいは変わらない。

 さらに言えば、この並には特上や上をもしのぐ味わいがある。「スジ」の味だ。「並切り落とし」は上等な部位より少々スジが多い。そう聞くと敬遠する人もいるかもしれないが、ダマされたと思って一度ぜひ食べてみてほしい。

 いい肉のスジを適度に加熱すると、そこいらの上や特上をしのぐ味わいになる。スジは噛み込むほどに味が深く伸びていくのだ。

 しかもこの写真からもわかるように一枚一枚の肉にも無数の切り目が入れられている。「並」であってもこの店は手を抜くことを知らない。

 そしてどんなビール党であっても、この一皿(と煮込み)に限ってはライスが必須だ。最高の店で最高に旨いとわかっているものを食べるとき、すべての欲望を全力で解き放つべきである。

 何カ月も前から予約を取る必要などない。スタミナ苑はいつも公正だ。その日思い立ったら並べばいいし、人数がそろわなければ入店はできない。行列嫌いの僕が唯一並ぶ、最高の焼肉店である。

 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、専門誌での執筆やテレビなどで活躍。「大人の肉ドリル」、「新しい卵ドリル」が好評発売中。

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