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中国の人権弾圧がエスカレート…「全体主義社会」の恐ろしさが一層リアルに 「バルーン 奇跡の脱出飛行」10日公開

 東西ドイツを隔てるベルリンの壁がまだ存在していた1979年、東ドイツに住む平凡な2つの家族が、熱気球に乗って西ドイツへ決死の亡命を果たした。この奇想天外な事件は、当時大ニュースとなったので、81年に「気球の8人」の題名でディズニーが一度映画化している。

 10日公開の「バルーン 奇跡の脱出飛行」は本国ドイツが製作したリメーク版。現代的な意味をもつためか、かなり趣が違う。事件から約10年後、ソ連や東ドイツは消滅してしたが、しぶとく生き残った同じ共産国家の中華人民共和国で、現在習近平政権が香港、チベット、ウイグルでの弾圧をますますエスカレートさせているだけに、映画に描かれた全体主義社会の恐ろしさが一層リアルに伝わってくる。

 物語は、西ドイツとの国境近くに住む電気技師ペーター(フリードリヒ・ミュッケ)が親友の家族とともに、いかにして気球をつくり、東ドイツから脱出したかを、時代考証を踏まえ細部にわたるまで再現していく。当時の東ドイツ社会を知るうえで、テレビ番組についての会話シーンが興味深い。ペーター家の前に住むシュタージュ(秘密警察)の職員でさえ、アメリカのテレビシリーズ『チャーリーズ・エンジェル』のファンだったというエピソードは、テレビの流す西側の姿が、共産主義体制を崩壊させたことを思い出させる。

 今、中国共産党が世界中のマスメディアを、莫大な財力や人脈を使い懐柔し、中国に都合のよい情報を広げる戦略を大々的に進めているのは、ソ連や東ドイツが西側の情報に翻弄された失敗を繰り返さないためである。

 その点、多くのマスメディアが中国共産党の情報操作に乗せられているわが国での本作公開は、重要な意味をもつ。日本人は過去の出来事を扱った作品として見るのではなく、香港やチベットなどで起きている現実の人権弾圧やわが国自身に関わる問題として捉えねばならないだろう。 (瀬戸川宗太)

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