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【中本裕己 エンタなう】「ラッキー」人生の最後を淡々と描く愛おしい映画

 海軍時代に比較的安全な厨房係に配属された90歳の退役軍人。その主人公のニックネームが映画のタイトルとなった「ラッキー」は、すべての者に訪れる人生の最後を淡々と描いた88分間が愛おしくなる。

 生涯独身のラッキーは、米南西部の小さな町で矍鑠(かくしゃく)と一日をおくる。ヨガと一杯の牛乳を欠かさず、身だしなみを整えて、なじみのダイナーで憎まれ口をきく。夜のバーでは常連相手に「現実主義」について講釈を。酒もタバコもやるが健康体。そんなタフガイにも、老いはやってくる。ある日、自宅で転倒。怖れと悟りのようなものが、爺さんの日常から徐々に浮かんでくる。

 「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス」などで知られる個性派俳優で、昨年9月に死んだハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作。沖縄戦での従軍経験などの実話も当て書きしている。本作を遺作と心得た覚悟がじわじわ伝わる。偏屈な仏頂面からうっすら笑みが浮かぶ場面は、ファンに向けたサヨナラのようでもあり、ぐっときた。

 「aloneの語源を知ってるか? all oneだ」というセリフに、言い古された、たとえ話を2つ思い出した。 人は独りで生まれ、独りで死んでゆく。そして、泣きながら生まれてきたのだから、笑って死のう。私にとっては、この映画に出合えたことが、この日のラッキーだった。全国で順次公開中。(中本裕己)

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